思考と現場の間で

「いいサービスづくり」のために、組織づくりやソフトウェア設計など、考えていることを書きます

オーケストラが示す未来の組織像

ドラッカーとオーケストラの組織論 (PHP新書)

ドラッカーとオーケストラの組織論 (PHP新書)

オーケストラとともに、最近組織のことを考えることが多くなり、偶然見つけた「ドラッカーとオーケストラの組織論」を読んでみました。オーケストラは特殊な組織だなと思うので、例えば会社組織のような普段よく接する組織と比較することがありませんでした。そういう意味で、新鮮でしたし、納得できる部分が多くありました。

P.39
「すべての楽器は、同じスコアに基づいて演奏する。しかしそれぞれは違った役割を果たす。一緒には演奏するが、ユニゾンで演奏する(注※それぞれが同一の旋律を演奏すること)のは稀である。第一バイオリンはホルンのボスではないし、それどころか第一バイオリンは第二バイオリンのボスですらない。そして一つのオーケストラは、一晩の短い時間に、それぞれ様式の違った五つの曲をスコアや独奏楽器に従って演奏する」

P.46
「オーケストラは、さらに多くのヒントを与えてくれる。時には、数百人の音楽家が同時に演奏する。組織理論によれば、楽器のグループごとに、グループ担当副指揮者が必要であり、その下に、楽器ごとの楽器担当副指揮者が必要である。しかし実際は、CEO(最高経営責任者)としての指揮者が一人いるだけである。演奏家の全員が、中間的指揮者など抜きに、直接その一人の指揮者に従って演奏する。演奏家たちは、高度の芸術家であり専門家である」

オーケストラという組織は、演奏現場では上下関係はありません。違いは楽器の性質と楽譜です。楽譜に書かれた音符を演奏することにより、オーケストラ全体として音楽が流れる。その間、例えば縦の線を合わせるなどのアンサンブルが発生して、それらは自発的に行われ(行わざるをえない)、80人あまりの人たちが整った一つの音楽を奏でるわけです。

P.39
「情報化組織は寛容な組織ではなく規律あるものだ。情報化組織には強く決定的なリーダーシップが求められる。一流のオーケストラでは、指揮者は例外なく、想像を絶するほど厳しい完全さが求められる。しかしながら、一流の指揮者に必要な能力とは、末席の最も未熟な奏者をも、まるで彼らの各楽器のほんのわずかな伴奏部分の演奏によって全体の出来栄えが決まるかのように演奏させる能力である。言い換えれば、情報化組織に必要なものはリーダーシップである。自己規律を持ったパフォーマンスを要求し、末端レベルの管理職からトップマネジメントに向けられる様々な要求を尊重するリーダーシップである」

そして、唯一演奏しないのが指揮者。指揮者は、演奏中の指示と演奏前の指示、団員との関係性などを作りながら、音楽の方向性を示していく。指揮者が譜面を詳細まで研究し、その上で解釈を加えて現場に持っていく。そこに共感が多く生まれればいい演奏になる確率が上がるし、そうでなければ悲しい結果となる。リーダーシップと演奏の方向性、団員とのコミュニケーション、カリスマ性など要求される能力は多種多様でです。その分、80人を一気に動かすことが可能ですし、少しの言動や行動が大きな結果を残します。

P.46
「一人の指揮者の下で、数百人の音楽家が共に演奏できるのは、全員が同じ楽譜をもっているからである。フルートやティンパニーの奏者が何をいつ演奏すべきかは、楽譜が教えてくれる。指揮者に対しても、それぞれの奏者に何をいつ期待すべきかは、楽譜が教えてくれる」

「換言するならば、情報化組織には、具体的な行動に翻訳できる明確で単純な共通の目的が存在しなければならない」

「情報化組織における主役は、専門家であって、トップ経営者でさえ仕事の仕方については口出しができない。指揮者はある楽器の演奏方法が分からなくても、その楽器の奏者の技術と知識を、いかに生かすべきかを知っている。これこそ、あらゆる情報化組織のリーダーが身につけるべき能力である」

楽譜というのは、例えばプログラミングのようにその通りに動けばすべてが再現できるものではありません。そこには余白というか幅というか楽譜に書かれていないけどもやらなければ音楽にならないことがたくさんあり、そこの差が演奏の差に出てきます。どうその余白を埋めるか。それが同じ楽譜を何度も演奏するクラシック音楽が成立する理由です。

その目的を達成するためには、80人ものオーケストラのメンバーが同じ方向を向かねばならず、またステージの幅が20~30メートルある離れた演奏者をアンサンブルさせるためにも指揮者が必要になってくる。そういうプロセスを経るとすると、会社のような組織にもつながるものがあるように思います。

ただ、オーケストラは制約が多くあります。時間を扱う芸術のため、時間という制約や楽譜、決まった楽器など、自由度はとても低いわけです。逆に会社組織だと、程度問題ですがルールでさえ自分たちで決めようと思えば決められる。そこは大きく違います。未来の組織像に近い部分があるとすると、演奏中はそれぞれのパートがフラットであり、指揮者は実際に演奏することができない。だからこそ、指揮者は暗黙的な部分も含めた説得力が必要であり、そういうリーダーが求められているのかもしれません。

そういう意味で、これからの組織論という意味では若干弱いような気がしていますが、例えば80人規模くらいの組織であれば、上司部下の関係も含め、オーケストラのような組織を作ることにより、高いパフォーマンスを実現できる可能性としてはあると思います。それには、ある程度の制約がある(またはバランスがいい制約を作りやすい)組織と、スキルによって差がつきやすく、また才能と努力次第でスキルを獲得できる業種であればよりなりやすいのではないでしょうか。